食と農とTPP

食の大切さを知り、食を通して健康な体や豊かな心を育てる『食育』
現在、食生活、食を取り巻く環境が急激な変化を迎え
この転換期を改めて見直す必要があると思います

私が農の師と仰ぐ方がこのような文でTPP参加を危惧しておりました
『長年、百姓してきてつくづく思うことは、「土はいのちのみなもと」ということだ。土を喰う。そう、私たちはお米や野菜を食べながら、それらの味と香りにのせてその育った所の土を喰っている。私たちはさながら土の化身だ。もしその土が汚れた土ならば作物も汚れ、食べる私達も汚れていく。もしその土が疲弊した土ならば作物のもつ生命力は弱く、それを食べる私達の生命力、免疫力も弱くならざるを得ない。「土はいのちのみなもと」なのだ。
多くの農民にとっては今さらということなのだろうが。

作物は言うまでもなく土の産物であり、その育った場所の土の影響を全面的に受け、その汚れはそのまま作物の汚れにつながっていかざるを得ない。山形県でキュウリの中からおよそ40年前に使用禁止となった農薬の成分が出て問題になったことがあった。40年経っても土の中に分解されずにあったのだろう。そこにキュウリの苗が植えられ、実がつき、ふくらんで汚染されたキュウリができてしまった。隣の市ではかつてお米からカドニュウムがでたこともあった。
つまり、作物は土から養分や水分だけでなく、化学物質から重金属まで、いい物、悪い物を問わずさまざまなものを吸い込み、実や茎や葉に蓄えるということだ。それらは洗ったって、皮をむいたってどうなるものではない。何しろ身ぐるみ、丸ごと溶け込んでいるのだから始末が悪い。土の汚染はそのまま食べる者の汚染につながっていく。

 一方、土の力の衰えは作物を通して食べる者の生命力免疫力に影響を与えていく。
作物の中のビタミンやミネラルなどの養分をみてみよう。「食品成分表」(女子栄養大学出版部)によって1954年と、約50年後の2000年のピーマンを比較すると、100gあたりに含まれるビタミンAの含有量は600単位から33単位へとほぼ1/18に激減している。ビタミンB1も0,1mgから0,03mgに。その他のビタミンも軒並み1/2、1/3とその成分値を下げているのだ。これはピーマンに限ったことではなく、全ての作物にあてはまることであり、また、ミネラルにも同じことが言える。

 原因は何か。それは土の力の減退にある。1954年まではほぼ堆肥だけで作物を作っていた。だが、60年代に入って堆肥から化学肥料へと農法を変え、効率と増産による最大利益を追い求めて来た結果、土の力が衰え、作物の質が落ちて行ったということだ。ビタミンAを言えば昔の一個が今の18個に匹敵するが、だからといって子どもたちに18個を食えとはいえない。彼らは50年前と比べ、数分の一に成分値が下がった作物を取り入れながら、骨や肉、血液を作らざるをえないのだ。子どもを取り巻く基礎的食料の質の劣化。このことが子どもたちの生命力や精神力に少なからざる影響を与えていると言わざるを得ない。
土の健康は即、人間の健康に結びつく。食を問うなら土から問え。いのちを語るなら土から語れ。健康を願うなら土から正そう。生きて行くおおもとに土がある。そういうことだ。

 土を食べ、土に依存することによって生きる。このことは我々のみならず、100年後の人たちにとっても、200年後の人たちにとってもかわらない。土は世代を越えたいのちの資源なのだ。政治や行政の最大の課題が、人々の健康、すなわちいのちを守ることであるとすれば、そのいのちを支える土の健康を守ることは第一級の政治課題でなければならない。切実にそう思う。

 さて、そこでTPPだ。
農水省の調査によるとTPPに参加すれば、食料自給率が14%まで下がるという。86%は諸外国の作物だ。それらの作物を食べながらさまざまな国々の土を食べることになる。その土が食べてもいいほどに安全かどうかは誰も知らない。汚染度合いも疲弊度合いもわからない。国民の健康で安心な暮らしが量的のみならず、質的にも危機にさらされる。

 海外から押し寄せる作物の安さに引きずられ、国内の農業はより一層、農薬、化学肥料に傾斜したものにならざるをえないだろう。土からの収奪と土の使い捨て。未来の世代にはぼろぼろになった土しか渡せない。そんな農業、そのような「国づくり」が進行していくのだ。それを民主党は「新成長戦略」という。でも、それがどのような意味で「成長」なのだろうか。

 そのような「成長」路線から離れ、未来の世代を脅かすことのない、土を始めとした、いのちの資源を基礎とする「循環型社会」づくりを通して、新しい人間社会のモデルを広くアジアに、世界に示していくことこそが日本の進むべき道ではないかと思うのだ。』

菅野芳秀:ぼくのニワトリは空を飛ぶ より

私が、この方を知ったのは、大学の講義の時でした
ある講師がこの方々の推進する『レインボープラン』を題材にあげ
地域循環型農業の実践者として取り上げたのがきっかけでした

私にとって幸運なことは菅野芳秀さんの息子さんが大学の同期にいたということです(世の中は狭いものです)

時代に警鐘をならす父芳秀さんの姿を間近に知ることができたのです

以来、その方の息子さんと机を並べ農学に勤しみ、夜は『農業の夜明け』を肴に酒を喰らい
己の考ええる農のかたちを問答したものです

その息子・菅野春平にはしっかりとDNAは受け継がれております

さて、話がそれてしまいましたが

施行まで時間はありません

今一度、日本の農について再度考えてみる必要があると私は思います

コメント

  1. 若き養鶏家こと菅野春平 より:

    TPPによる自由化はなにも農業だけの問題ではなく労働、金融、投資、医療、保険などあらゆる産業が関係してきます。
    例えば、低賃金の労働者が流入することにより日本人の雇用が奪われたり、国民保険の撤廃要求により低所得者は医療を受けることができなくなるとも言われています。
    更に自由化の旗を振りかざしアメリカは再度郵政民営化を要求してくる可能性は充分に考えられます。そしてTPPの制約によって日本はそれを阻止することはできません。

    太郎さんや僕が従事している農業も被害は甚大です。
    世界の食料価格が上昇し各国が食料自給率の向上に取り組んでいる最中、日本はその逆を進もうとしています。自由化の市場原理に対抗することができない多くの農家が廃業を余儀なくされます。それに伴い農業関連企業は芋づる式に倒産し地方が衰退していくでしょう。

    自給率の低下はさるこながら、食の安全性も危惧されます。
    自由化によってBSE感染の危険性がある部位や20ヶ月齢以上の牛肉、ホルモン剤を投与した牛肉や乳製品、遺伝子組み換えトウモロコシや大豆、日本の残留農薬基準を満たさない農作物が雪崩のように押し寄せます。
    そして我々日本人はそれらの農産物に対し輸入制限をすることができません。なぜならそれがこれから日本が参加するTPPのルールだからです。

    日本がTPPに参加した後、もしかしてそれらの危険性に国民が気づくかもしれません。
    しかし気づいたとしても既に手遅れです。元々自給率が40%の日本がTPP参加後は14%です。想像をはるかに超える農地が再生困難な耕作放棄地になるのです。
    荒れた農地を前にしては、残りの86%の人間はいくら安全な農産物を渇望してもありつくことはできません。耕す農民はおろか土地も無いのですから。

    アメリカの自由主義に抗議した「アンチジャンクフード」の英雄、フランス人農民活動家のジョゼ・ボヴェはこのように言っています。
    「土地は両親から相続したものではなく、子供たちから借りているもの」
    と。

    連綿と受け継いできた農地。僕達はこの日本の農業を土地をいのちを次の世代に伝える義務があります。
    しかしTPPを認めてしまえば、僕達の子供、その子供たちが「いのちあるたべもの」を食べることができずに苦しむことになります。

    僕には耐えられません。。。

    立場が違えば賛否両論あるかと思います。

    TPP反対。
    これが僕の結論です。

  2. はた より:

    菅野さん、お父さんの方ですが、以前に取材でお会いしたことがあります。
    私みたいな若輩者が言える立場にはないかもしれませんが、
    ことばの一つひとつを丁寧に選びながらおっしゃる佇まいには、
    確固たる信念が感じられ、思わずインタビュアーであることも忘れ、
    話に聞き入ってしまったことを思い出します。

    レインボープランの全容とまではいきませんが、
    ひととおり取材させてもらい、
    じゅんさい太郎さんが書かれている、
    「土はいのちのみなもと」という言葉を聞いた瞬間、
    遠く離れた故郷、秋田の土壌がオーバーラップしたのはいうまでもありません。

    土を食べる。
    今や食卓の上に並ぶ料理の食材が
    どのような環境で、どのような人々が、
    どのような思いで愛しみ、育んだものかなど、
    想像できなくなりつつある都会の人々に
    本当の「農」というものを知ってもらう責務があると「田舎人」の私は思います。

    私は農家ではありませんし、
    軽々にTPPについて意見できるとは思いません。
    もちろん、立場によっても意見は分かれるでしょう。
    だからこそ、論議の時間が必要だと思います。
    国民総意としての賛成なのか、反対なのか。
    合意形成にはかなりの時間が必要だろうと思います。
    しかしながら、数年前、かの地で相対した、
    菅野さんの笑顔、忘れられません。
    そして、一致団結して仲間と虹の駅を切り盛りする姿に、
    地域のチカラを感じました。

    あれから数年。

    その土地に生まれ、土によって育まれ、
    そして土に還るという人の一生を
    考えさせられたあの時間を
    思い出させてくれて、ありがとう。

    そして、それらを思う時、
    おのずと私の答えは出るのかもしれないと、思っています。

  3. じゅんさい太郎 より:

    春平

    早速のカキコありがとう。

    「土地は両親から相続したものではなく、子供たちから借りているもの」とても胸に響きますね。

    あなたの言う『日本の農業を土地をいのちを次の世代に伝える義義務がある』はあなたの使命ですね。

    私自身も先祖から『伝承』すること
    師とする人から『相伝』したことを
    TPP施行後、農界が変化しようとも
    己を信じて実践するのみです。

  4. じゅんさい太郎 より:

    はたさん

    書き込み頂きありがとうございます。
    小生も菅野さんの説かれるお話、
    記される言葉には、その一つ一つに『生きた力』を感じました。

    土とともに私もこの地で生きようと思います。

    私の住む三種町(旧山本町)はじゅんさいが有名です。
    もし、秋田にこられることが御座いましたらどうぞお立ちよりください。
    その土地、水、気候が育んだ採れたてのじゅんさいを是非食べて戴きたいです。
    また、じゅんさい沼など案内できればいいなと思います。
    では、もし機会ありましたご連絡ください。お待ちしております。

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